今回は、『仕事のやり方間違えてます
―成功を手にする「理系思考」10の法則』の著者、
東京大学大学院教授の宮田秀明さんに、
クリエーティブな仕事のあり方についてお話を伺います。
宮田さんは著書のなかで、
誰かのために価値を生みだすのが仕事であり、
そのためにはビジョンを持つことが最も大切だと明言されています。
「価値」「ビジョン」とは、何なのか?
両者はどう関連しあっているのかについて、
まずはお話をお聞かせください。
まず価値の評価というのが、難しいですよね。
20世紀の価値というのは、非常に単純だったんですよ。
飛行機があれば便利になるからと飛行機を作り、
テレビが欲しいなと思ってテレビを開発したら、
それが瞬く間に普及していった。
でも、時代とともに人々の求めている価値が
だんだん複雑になるにつれ、その価値とは何かを
しっかり見極めなければならなくなってきたわけです。
たとえば、「環境」とか、スローライフといわれる
「人間らしい生き方」も、いまでは重要な価値なわけです。
その価値に対して、いったい何をすればいいのか、
という考えから始めるのが、ビジョンベースの仕事の進め方。
その逆に、これをやるとうんと儲かるからやろうというのは、
ビジョンとはいえず、そういう発想でやっていくと
必ずどこかで間違えるわけです。
ですから、ビジョンが一番大切なんです。
ビジョンというのは、ほとんど価値と同じ。
価値を作り出すための目標がビジョンなわけですから・・・。
日本という国を振り返ってみても、
ビジョンベースで動いたときに、すごく成功しているんですよ。
明治維新の頃の坂本竜馬や
終戦直後に世の中を引っ張っていった人たちは、
その時代の価値を見すえて、このままじゃ日本はまずい、
植民地になっちゃうぞ、何をしようかとビジョンベースで考えて
行動を起こしていた。
それから時代は変わっても、基本はやっぱり価値なんです。
でも、いまの行政とか政治家はビジョンがないって、
よくいわれるでしょう?
イラクに対して、何をすべきかについても、
ビジョンがないですよね。
単にアメリカをフォローしているだけで。
つまり、いまの日本に最も欠けているのはビジョンだと?
イタリア人なんて、もう6月に入るとみんなソワソワしだして、
「空を見てください、もうすぐバカンスです」といって、
仕事をさっさと切り上げてしまう。
そうやって彼らは人生を楽しんでいるわけですよ。
それで、一人当たりの国民所得が低いかというと、
そうでもなくて日本の3分の2くらいある。
彼らはぜったい残業なんてしないのにですよ。
結局、日本人がこれだけ勤勉に働いても
その程度しか差が出ないのは、
組織全体にビジョンがなく、
社員の能力を活かしきれていないといえるわけです。
結局、日本は時間をたくさん使って、
時給の低い仕事を一生懸命やっているんですね。
ビジョン、コンセプトのレベルで考える仕事が
一番時給が高いのに、デザインやソリューションの
仕事ばかりをやっている。
例えば、パソコンでいえば、ソフト、アプリケーションは
基本的にアメリカがやっていて、
「パソコン」というコンセプトそのものもアメリカでしょ。
で、日本は中の部品を一生懸命作っているわけです。
日本人が性能の向上とか、品質の向上といったソリューションを
一生懸命やって形にしてくれるわけだから、
コンセプトを作った人はうれしいですよね。
日本は、そうやって、わざわざ時給の低い仕事を
個人も企業も選んでやっているわけです。
それも、自己満足のレベルで楽しいのならいいんですけど、
ぜんぜん楽しくないわけですよ。
さらに楽しくないだけではすまなくて、
それをさらに安く生産する国が出てきて、
産業自体がうまくいかなくなってきているわけです。
では、この先、日本はどのような方向に
進んでいけば良いのでしょうか?
私の見る限り、ダメな産業ほど、
マネージャーが年をとっていますね。
例えば、50代の人が40代の人に向かって、
「あいつらはまだダメだから」といういい方をして、
若い人に重要な仕事を任せない。
そういう企業ほど危ないですね。
本当に企業が成長を望むなら、
若い人材にいい経験をさせて、育てていかなくてはいけない。
簡単にいえば、プロジェクトをやらせたり、
仕事を任せるということです。
エンパワーメント(権限委譲)ですね。
人って、育つときはすごく育ちますから・・・。
若い人を育てなければ、
その企業にとって将来がきつくなることは
わかりきっているはずなのに、そういうことを考えずに、
仕事をしたり、経営をしたりしている人が多すぎるんですよ。
この会社をこうしたいというビジョンを示さず、
売上をもっと伸ばせとか、
もっと足を使って営業してこいとかいっているわけです。
それはまさに時給の低い方向に向かわせるやり方ですよね。
去年、ルイ・ヴィトングループのベルナール・アルノーさんが
本を出しのですが、その本の原題は
「創造の情熱」っていうんですよ。
彼は、会社の経営で一番大切なのは「創造の情熱」だといっていて、
ブランドを守るっていうのは、クリエートすることだと
いっているんです。
だから、デザイナーの起用も大胆ですよね。
結局、世の中で、守ろうと思って守れるものはあまりないんですよ。
それがすべてのメカニズムなんです。
それをわかっていないと思うんですよ、日本のトップは。
若い人がどんどんクリエートしていくから、
会社もうまく回転していくわけです。
私が本を書いているのも、クリエートだし、
アメリカズ・カップのためのヨットを作っているのも
クリエートなんです。
クリエートしていると、楽しいわけですよ。
クリエートの楽しさを知れば、本来、
技術開発にしても、商品開発にしても、
販売にしても、日本はもっといい形で仕事ができるはずなんです。
それは、日本の若い人々がクリエートすることの喜びを知らされず、
またその喜びを知らないから、クリエートできない、
ということですか?
そうなんです。
学校教育でも、そういうクリエーティビティの重要性を
小中学校から教えていない。
クリエートするって、成功するとうれしいですけど、
当然失敗もするわけです。
ですから、失敗の経験はできるだけ早くしておいたほうがいい。
模型飛行機を作って飛ばしたけど、墜落して壊れちゃった。
そういう失敗を経て、いつか本当に空を飛ぶ飛行機を
作れるようになるわけです。
そういう経験もないまま、年をとってから、
そろそろ私もクリエートしようかなと思っても、
そう簡単にできるもんじゃない。
それは、絵をやるにしても、音楽をやるにしても、
まったく同じことで、早いほうがいいわけです。
結局、大切なのは、いい遊びをたくさん経験させるってことですよ。
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